大地の芸術祭2012 Air for Everyone(金属職人の家)
PROJECT NAME

大地の芸術祭2012
Air for Everyone(金属職人の家)

Air for Everyone at Echigo Tsumari Art Field 2012

CATEGORY
ART
YEAR
2012.07
AREA
新潟県中魚沼郡
OUTLINE
2012年に開催された「大地の芸術祭」への出展作品です。空き家の中に、楽器のようなたくさんの仕掛けが設置されています。訪れたお客さんの記憶とこの場所の記憶が繋がる参加型のアート作品です。
大地の芸術祭2012 Air for Everyone(金属職人の家)
おそらく建築家にとって、アート作品は難しい対象である。
建築家の仕事は基本的に、施主が必要とする機能をパズルのように読み解きながら配列し、新しい空間的価値を生み出していく作業だ。敷地条件や法規も配慮せねばならない。つまり、多くの与件や制約をバネにして、建築家は建築を生み出しているのである。
ところがアート作品の制作においては、建築設計に比べれば、格段に制約が少ない。機能も求められない。条件と言えば、規模、素材、制作方法といった物理的条件だけだろう。その代わりに重要なのは、メッセージ性、ストーリー性、そして鑑賞者に何かを感じさせる触発性だ。
大地の芸術祭2012 Air for Everyone(金属職人の家)
このアートプロジェクト「Air for Everyone(金属職人の家)」は、新潟で開催された「大地の芸術祭」への出展作品であり、空き家を使ったインスタレーションである。
ここで家所亮二は、アメリカ人の現代美術家、アン・ハミルトンと共同作業で作品を制作した。ハミルトンが、「息吹を感じさせる」という原型となるアイデアやスケッチをつくり、それを受けて家所は、「床を撤去して吹き抜けをつくる」「構造的にここに補強が必要」「こんな建材はどうか」と建築的な提案をし、ハード面で形にしていった。
大地の芸術祭2012 Air for Everyone(金属職人の家)
大地の芸術祭2012 Air for Everyone(金属職人の家)
大地の芸術祭2012 Air for Everyone(金属職人の家)
作品コンセプトは、空き家に生命力を与え、この家が息を吹き返すようなものをつくること。
この空き家にはかつて、板金屋が住んでいたという。その内部空間のあちこちに、金属片でつくられた素朴な楽器が設置されている。1階に垂れ下がったたくさんの紐のどれかを選んで引っ張っると、楽器に空気が流れ込み、家のどこかで楽器が音を奏でる。まさに「息吹を感じさせる」。別の紐を引っ張ると、また予期せぬ場所から楽器の音が聞こえてくる。まるでかつての住人の仕事の痕跡が、空き家のあちこちに残っているかのようだ。
この作品は鑑賞者に、「いつでもあなたの行為は、別の時間や別の場所で他人が行った行為と繋がっているのだ」と教えてくれる。
空き家の外壁には、魚のエラのように薄い布がかけられ、家全体が呼吸しているように見える。この空き家はきっと息を吹き返したのであろう。
家所は、この作品制作を終えて、次のように述懐している。
「ハミルトンさんの作品には余白があって、来場者の行為で作品が完成するようにできている。そのことが、作品に生命力を与えると同時に、来場者の五感を刺激する契機になっている。そんな『生命力』の表現に感銘を受けた」
その後、家所は、ハミルトンの個展を見るためにニューヨークへ出向いた。

こうしたコンセプチュアルで幻想的なアートプロジェクトに、建築家である家所が興味を持ち、挑戦したという点に、家所の懐の深さと柔軟性を感じる。
大地の芸術祭2012 Air for Everyone(金属職人の家)
text by salta