MAKUでは、「日本の伝統技術」「日本人デザイナーだからできること」がテーマになっている。
WAKUでは、つねに家所が大切にしている「自然環境が人に与える心地良さや美しさ」がテーマになっている。どちらも大きなテーマだけれど、これらの家具を見る私達は、肩肘張って鑑賞する必要はない。直感的に楽めるようにデザインされているからだ。この二つの家具には、遊び心がたっぷり仕込まれている。
まず、ネーミングが愉快だ。
「MAKU」と「WAKU」。「MAKU」の「M」を上下ひっくり返すと「WAKU」になる。ミラノで世界中の人々に見られることを想定し、短かくリズミカルな音で、誰もが親しめるインパクトあるネーミングにした。日本語が分かる人なら、「MAKU」という音の多義性に気づくだろう。一つは、種を「MAKU=蒔く」。この家具デザインは、日本からイタリアに、文化とデザ インの種を「蒔く」プロジェクトなのだ。よく見れば、ゴールド塗装で描かれた模様は「蒔絵」のようだ。そして、「MAKU=膜」。膜のように表面を覆っているテクスチャーが、デザイン上のポイントになっている。
いったいどんな「膜」なのか。出展依頼を受けた時期に家所は、頻繁に京都へ出向いていた。伝統技術を見て回っていたのだ。そこで出合った、革を鞣す(なめす)特殊な技術を見て、家所はひらめいた。
その技術で牛革を鞣して、ブロンズ色の特殊な染色をほどこしたのだ。フレーム部分をブロンズにしようと考えていたから、それに合う色味を模索していった。こうしてMAKUが生まれた。
同時に、MAKUには、日本人建築家である家所のアイデンティティーが投影されている。今まで着物に使われてきた染色技術を、家具制作に転用することで、日本の伝統技術を途絶えさせず生き延びさせることができるのではないか。そんな家所の思いが込められている。
さあ、そろそろ座ってみよう。ブロンズ色だから硬質に見えるが、座ると柔らかくて心地良い。ネーミングだけでなく、こんなところにも、人に「おっ!」と思わせる遊び心が見え隠れする。
text by salta