ワインバー G5
PROJECT NAME

ワインバー G5

 

CATEGORY
BAR
YEAR
2017
AREA
東京都中央区
OUTLINE
銀座の中心地にオープンしたワインバーです。
カウンター席のみのシンプルな構成です。
その空間の中で、自由奔放な木材の造形が、唯一無二の空間体験を生み出します。
ワインバー G5
海や山で自然の風景を眺めた時のことを思い出してみてほしい。その大胆で、予想外で、複雑な造形は、いつまで見ていても飽きない。直線は一切なく、曲線だけで構成されている。理由も目的もわからない不可思議な造形。何度見ても、人間には理解し尽くせない。けれど、手で触ってみると、人間の肌にとても馴染む。そんな草木や地形や風景は、私たち人間を魅了し、惹きつけて離さない。
家所亮二が生み出す空間はつねに、そうした自然が持つ魅力を、再編集し、時にデフォルメしたものと言える。この銀座にできたバーは、その好例だ。
ワインバー G5
ワインバー G5
ワインバー G5
ワインバー G5
最大の特徴は、木製のバーカウンターだ。そこに、原木から削り出した三つの量塊が鎮座している。
それらは、彫刻家が制作したアート作品だ。つまり、この三つの木塊は、設計者である家所がコントロールすることのできない存在と言える。こうした「コントロールできなさ」が、自然物の大きな特徴であり、その「コントロールできなさ」こそが、この店の空間に深みを与えている。
ここで家所はむしろ積極的に、「自然が与えてくれた造形」を読み解くようにして、使いこなしているように見える。つまり、モノが目的に奉仕していないのだ。まずモノが存在していて、それを人間が読み解いて使っている。そのことが、この空間に豊かさを与えている。

豊かな曲線で構成されたカウンターのおかげで、客一人ひとりが、いろいろな距離感やいろいろな場所を選びとりながら、席に座るだろう。ソムリエと話したい時には、中央の窪みの前に座る。木陰に隠れるようにして男女が二人でゆっくり話したい時には、木塊の裏手のソファ席に座る。
同じ一つのカウンターの中に、多様な場所性が共存しているわけだ。
規格化されていない。1席ずつがパーソナリティーを持っている。この店は、そんな珍しい空間デザインと言える。しかし、家所の思考によれば、むしろ事態は逆だ。自然の風景を見てみれば、不均質であることの方が「普通」なのであり、直線ばかりで規格化されているテーブルの方が「珍しい」のだ。けれど私たちは、規格化されたものにあまりに慣れ過ぎてしまった。「普通」であるはずのものが、奇抜に見えているのだ。
もちろん、背景にあるこうしたデザイン哲学を知らなくたって、直感的に感じられる空間の居心地とワインの味わいで、十分に特別な時間に酔いしれることができるはずだ。
ワインバー G5
text by salta