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PROJECT NAME

厳選焼肉 ニクノトリコ 六本木店

 

CATEGORY
RESTAURANT
YEAR
2016
AREA
東京都港区
OUTLINE
東京・六本木にオープンした焼肉店です。新築ビルの1、2階に入っています。
1階は洞窟のようなロングテーブル席。2階は、木々を思わせるパーティションで緩やかに仕切られた座敷席。ただし、普通の焼き肉店ではない。まるでピクニックで訪れた森のような風景が広がります。
目指したのは、「脱・焼肉屋」です。
厳選焼肉 ニクノトリコ 六本木店
人は、どんな時に食べ物を「美味しい!」と感じ、その感動が脳裏に深く刻まれるのだろう。
おそらく、心身の両面で「気持ちいい」と感じながら食事をしている瞬間ではないか。例えば、青空の下、河原で仲間とバーベキューをした時。広大な芝生が広がる丘で、ゴクゴクとビールを飲んだ時。家所亮二はそれを、「味の記憶は、シーンの記憶でもある」と表現し、今回のプロジェクトで「視覚情報だけに重きを置いた空間デザインには限界がある。触感が重要だ」という設計方針にたどり着いた。
そこで家所は、この焼き肉店のプロジェクトにおいて、自然環境のような伸び伸びと開放的な身体感覚に訴える空間を設計した。
厳選焼肉 ニクノトリコ 六本木店
厳選焼肉 ニクノトリコ 六本木店
厳選焼肉 ニクノトリコ 六本木店
厳選焼肉 ニクノトリコ 六本木店
店内は、対比的な二つのフロアで構成されている。
1階のイメージは「洞窟」。凹凸をつけて塗られたモルタルが、自然環境のようなテクスチャーを生み出している。床には玉砂利のようなガラス素材。特殊製法による6.5mのガラステーブルには、スモークが封印されている。まるで人類の原初の食事の場を思わせる風景だ。
一方、2階は「大地と緑」。OSBパネルを積層させた床の起伏は、等高線のよう。この床の踏み心地は、人の触感を刺激するだろう。「斜面」に寄り掛かかれば、まるでピクニックのワンシーンだ。

こうした空間デザインは、「美味しい」という感覚を、味覚だけでなく、視覚や触感など人間のトータルな感覚を通して客の記憶にインプットするために用意された。まさに、河原でのバーベキューのシーンが、「気持ちよくて楽しくて美味しかった」と体感的に人の記憶に長く残り続けるのと同じだ。
厳選焼肉 ニクノトリコ 六本木店
当然、飲食店運営という観点から見れば、床に段差をつけることにリスクが伴うと感じる人もいるだろう。だが、ここは飲食店の激戦区、六本木だ。無個性な店を出店しても埋没してしまう。「いかにも焼き肉屋」という既成概念を超えて、強い個性と心地良さを空間に与えることによって、「また行きたい」と思える“場”を生み出す。そして「誰にでもそこそこ好かれる店」よりも、「強く気に入ってくれたお客さんがリピーターになってくれる店」を目指す。それが、ここで家所が提案した空間デザインの戦略だ。プロジェクトの初期から「脱・焼肉屋」を念頭に置き、細部にいたるまでそのコンセプトを徹底した。従来のロースターやダクトのあり方ではたちまち既成の「焼肉屋」のイメージが生まれてしまうため、素材や構成を工夫することで既視感を払拭している。

なお、「洞窟(1階)」と「大地(2階)」というモチーフは、空間のプライバシー度に関係している。1階では客たちが一つのテーブルをシェアできるが、2階ではグループごとのプライバシーを確保している。スチールパイプ製の「木」に荷物やコートを掛ければ、適度に視線を遮るパーティション効果を果たす。
厳選焼肉 ニクノトリコ 六本木店
昔から「ものは器で食わせる」という言い方がある。器の良さや、食と器のマッチングが、美味しさを演出するという発想だ。この焼き肉店のデザインを見ると、この発想を拡張して、「ものは“空間”で食わせる」と言ってみたくなる。大切な仲間との記憶に残る食事の風景が、きっとあなたの身体を通して記憶に刻まれるだろう。
text by salta