これは、とある住宅の階段。
黒いジグザグのラインが空間に描かれたようなスチール製の階段だ。そこに平行にジグザグのラインが何本も追加されている。そのせいで、どこが階段なのか分かりにくくなっている。カメレオンみたいな階段。
これは、ちょっとした遊びゴコロのあるデザインと言える。けれど、このデザインには遊びゴコロ以上の意味がある。というのは、この階段は、リビング（2階）から主寝室（3階）へと続く階段である。リビングに来客がいる場合、来客の意識がプライベート性の高い寝室にあまり向かないほうがよい。そのため、階段の存在が曖昧化されているのだ。つまりこの階段は、人の視線や意識をコントロールするデザインと言える。もう一つだけ付け加えて言うなら、そのような戦略は、この住宅全体のテーマと一致している。住宅密集地に計画されたこの住宅では、「住まい手のプライバシーをどう確保するか」が最大のテーマだったからだ。