住宅の玄関先に設置された郵便ポスト。
竣工直後なのに、赤っぽく錆びている。これは珍しい。通常は、ピカピカのポストが設置されているはずだが。
これには、わけがある。
このポストは、コールテン鋼という素材でつくられていて、「黒い鉄→赤っぽい錆び（急激な変化）→ボルドー色の深い色の錆び（長くこの色で安定する）」へと変化していく。比較的早く錆びて、数カ月で安定した錆び色の段階に達する。
このプロセスは、住空間が施主の生活にフィットしていくプロセスととてもよく似ている。
まず、施主が、新しくこの住宅に引っ越してくる。その直後は、見たこともないオリジナリティーあふれる住空間であるために、施主の生活は一時的に急な変化を余儀なくされる。けれど、施主のためにオーダーメイドで設計された住宅は、徐々に施主の生活にフィットし始め、深くフィットした段階で、長い年月に渡って安定する。
そうした施主と住空間の関係の変化を、この郵便ポストの味わい深い錆色が体現している。